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2019.05.16
健康情報

第2回 脂質の摂りすぎに注意!

第2回 脂質の摂りすぎに注意! PDFファイル

何を食べるかが健康の鍵
 バランスの良い「食事」と適度な「睡眠」は健康を保つために欠かせないものです。特に食事に関しては、「何を食べるか」という判断次第で、健康にも、不健康にもなり得るのです。
 前回は食事で得られる栄養素の種類とそれぞれの働きについてでした。今回は、みなさんが一番気にしていると思われる、「脂質」が引き起こす健康上の問題を取り上げます。

1. 日本人の食生活の変化と問題点

さて、前回の終わりに「バランスの良い食事から様々な栄養素を摂取すべき」と述べましたが、昭和40年(1965年)と平成27年(2015年)とでは、栄養バランスがどう変わったのかを比較してみましょう。図1を見てください。

食事で摂る糖質タンパク質脂質の割合は、昭和40年時点では72:12:16でした。これが、50年後の平成27年時点では58:13:29と変化しています。肉体労働の減少と食事の欧米化により、糖質(炭水化物)が72%→58%と14ポイント減り、脂質の摂取割合は16%→29%と2倍近くに増えたのです。
「脂質の摂り過ぎは良くない」ということは、みなさんよくおわかりだと思います。では、脂質過多の食生活への変化は、実際に日本人の健康に何をもたらしたのでしょう?図2を見てください。
赤線で示してあるのが、日本人の全がん死亡者に占める大腸がんの割合の変化です。昭和40年に大腸がんの割合は男性が6.8%、女性が6.7%でした。ところが、平成27年には男性が43.9%、女性が35.5%にまで達しています。
平成27年の死亡率順位で大腸がんは、男性が第3位、女性では第1位となっています。これを先程の栄養バランスの変化と照らし合わせると、大腸がんの異常な増加は脂質の摂り過ぎの結果と考えられます。特に、トランス脂肪酸の影響が大きいでしょう。

 

2. コレステロールは悪者ではない!

では、脂質によって大腸はどのように損傷を受けるのでしょう。 食事で摂った脂質の消化・吸収を促すために、胆嚢から胆汁が分泌されます。腸内環境が悪いと、この胆汁の主成分である胆汁酸が悪玉菌と反応して、発がん物質が生まれます。自分の体内で生成されたこの発がん物質により大腸が痛めつけられ、やがて、大腸がんが発生します。これが現代医療の考え方です。
この説明の中で、「悪玉菌が大腸に悪さをする」という点は正しいと思います。しかし、現代の日本医療界は物事を点でしか見ていないため、大事な点を見落としているのです。身体に何かしらの不具合が起こるには、根本的な原因と二次的な原因があり、しかもそれが複合的に絡み合っています。胆汁酸と悪玉菌が一緒になって悪さをするというのは、二次的原因の1つにすぎないと考えます。
大腸がんの根本的原因、それは、脂質過多により血管が目詰まりを起こし、動脈硬化が進むことにあります。
動脈硬化と聞くと、「悪玉コレステロール」が思い浮かぶでしょう。ですが、脂質から作られるコレステロールはその約95%が、肝臓を介して血管と腸の間をぐるぐる回ってリサイクルされています。これを「腸肝循環」と言います。コレステロールは全身の細胞膜の原料となる非常に大切な物質です。だからこそ、身体の中で何度も何度もリサイクルされるのです。決してコレステロールそのものが悪者なのではありません。
ただし、そのコレステロールの原料となる元々の脂質の質が悪い場合、これが問題となるのです。動脈硬化はあくまでも血管での事象を指す言葉ですが、質の悪い脂質を摂っていると血管だけでなく、腸管も動脈硬化と同様のダメージを受けることが考えられます。

3. 大腸がんの根本原因は質の悪い脂質

腸の変化と血管の変化は、共通の要因によって同時に進行していると考えられます。腸も血管もどちらも管状です。ホースをイメージするとわかりやすいでしょう。では、このホースに油を通してみましょう。内側には油がべっとりです。そのホースを何十年も使うとどうなるでしょうか。ホースはパリパリになり、だんだん内側が詰まってきます。
しかし、人間の細胞はホースとは違い、日々入れ替わっています。普段から質の良い脂質を摂取していれば、それを原料に新しい細胞膜が作られ、腸の細胞も血管の細胞も極端に劣化しないはずなのです。

ところが、質の悪い脂質を長年摂取し続けると、その脂質を原料として質の悪い細胞膜が作られるようになり、腸の細胞も血管の細胞も徐々にバランスが崩れてきます。また、コレステロールの吸収を担う胆汁酸の質も悪化すると考えられます。
同時に、血管の内側に余分な過酸化脂質がこびりついて、血液の通り道が狭くなってきます。こうして血管目詰まりが進行して血液の流れが悪くなるにつれ、細胞の入れ替わりも滞って血管自体の弾力性が失われ、硬くなっていきます。これがいわゆる「動脈硬化」です。
大腸の主な働きは水分吸収と便の形成です。しっかり機能するよう、大腸にはたくさんの動脈を通じて血液が流れ込み、酸素と栄養、それに外敵や異常細胞を倒す役割を担う白血球が供給されています。ところが、動脈硬化が進行すると、血液から十分な量の酸素・栄養・白血球を細胞に供給できなくなってしまうのです。そのため、細胞の生まれ変わりや、がん化した細胞の除去がスムーズに行われなくなります。そうなると腸内環境も悪化するので、悪玉菌が増殖します。
こうした腸と血管の細胞の質の変化と、両者の間に生じる悪循環によって、最終的に大腸がんが発症すると考えられます。

4.動脈硬化は様々な病気の元凶

ここで、図6「主な死因別死亡数の割合」を見てください。

 

 

日本人の死因の第1位はがんです。図2のグラフで平成27年の大腸がんの死亡率が男女とも30%を超えていたことから、この円グラフの死因全体の10%強が大腸がんと見て良いでしょう。第2位は心疾患です。そして、第4位に脳血管疾患がきています。
大腸がん・心疾患・脳血管疾患の3つで、30%以上を占めることになります。実はこれらに共通して関係する部分があるのです。それは「血管」です。動脈硬化を起こしている血管がこれらの病気の元凶と言っても過言ではないのです。
毎日の食事でどんな脂質をどれくらい摂るか、それが動脈硬化の進行に大きく関係してきます。次回は脂質の摂り方について、具体的にお話しします。(薬剤師 吉野 仁)