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2019.11.06
健康情報

第3回 摂ってはいけない油

第3回 摂ってはいけない油 PDF

何を食べるかが健康の鍵
 バランスの良い「食事」と適度な「睡眠」は健康を保つために欠かせないものです。特に食事に関しては、「何を食べるか」という判断次第で、健康にも、不健康にもなり得るのです。
 第2回は、動脈硬化が様々な病気の元凶になっているというところで終わりました。今回は、動脈硬化の原因となる「脂質」について、特に、摂ってはいけない油のお話しです。

1. トランス化したサラダ油

動脈硬化は普段の食事から吸収される脂質(油)によって進行します。「揚げ物を食べて胸焼けした」という経験は、みなさんお持ちでしょう。何度も使った油が身体に良くないことは、感覚的にわかっていると思います。繰り返し火に掛けることで酸化した油は、身体にとって害になるのです。
油の摂り過ぎは良くないから、せめて身体にやさしい植物性のサラダ油を使っているという方は多いでしょう。結論から言います。サラダ油が身体に良いということは全くありません。
大多数の方は、「油は原料となる種子や豆などに圧力をかけて搾り取る」というイメージをお持ちではないでしょうか。確かにそうして作られた油もあります。しかし、それは非常に高価な油となります。図1の「サラダ油の製造プロセス」を見てください。

 

1リットル数百円の安いサラダ油は、一定の原料からより多くの油を採るために、石油から作られたヘキサンを加えて加熱します。すると、原料に含まれる油がヘキサン中に溶け出します。その後、ヘキサンだけを熱で蒸発させます。最後に高温で脱臭・精製してサラダ油ができあがります。この工程を知ってしまうと、サラダ油を使うのが怖くなりますね。
こうして作られる安いサラダ油には、製造過程でトランス脂肪酸が大量に含まれてきます。トランス脂肪酸は、悪玉コレステロールを増やし、善玉コレステロールを減らす、まさに「動脈硬化の原因」となるものです。牛や羊など反芻動物の肉に微量に含まれる以外、自然界には本来存在しません。ところが、サラダ油の製造過程で何度も高温処理するうちに、油の構造が図2のように天然のシス型からトランス型へと変わってしまうのです。

 

2.マーガリン・ショートニング

トランス脂肪酸を含むサラダ油を原料としたマーガリンショートニングは、もっと怖いものです。これらは絶対に摂るべきではありません。マーガリンやショートニングは、バターやラードの代用品として人工的に開発されたものです。マーガリンがバターより格段に安いのは原料の違いによります。法律ではバターは乳脂肪分80%以上、マーガリンは油脂80%以上と決められています。
「マーガリンは油脂80%以上」という時の油脂とは、もともと常温(15~25℃)で「液体」の植物油脂(サラダ油)のことです。では、なぜマーガリンは同じ常温で「固体」なのでしょう。不思議だと思いませんか。氷が溶けて水になるように、固体が液体に変わる温度を「融点」と言います。常温で固体のマーガリンは、サラダ油より融点が高い物質に変わったということです。
このサラダ油を固体化させる技術が恐ろしいのです。「水素添加」という方法で、油に水素をくっつけることにより、融点の低い不飽和脂肪酸のサラダ油から融点の高い飽和脂肪酸のマーガリンへと、一気に油を変化させてしまう。この時にトランス化が急激に進むのです。農林水産省の資料によると、マーガリンは全体の13%がトランス脂肪酸で構成されています。ショートニングに至っては31%です。一方、バター中のトランス脂肪酸は2%程度です。
2003年、WHO(国際保健機関)とFAO(国連食料農業機関)が合同で、生活習慣病予防のための専門家会合を開催しました。その中で、トランス脂肪酸の摂取量を総エネルギー摂取量の1%未満とするよう勧告をしています。
これに従うと、日本人が1日に消費するエネルギーは平均で約1,900 kcalですから、平均的な活動量の場合に、1日当たり約2g未満にトランス脂肪酸の摂取を抑えることが目標になります。

 

 

3.トランス脂肪酸1日2g未満は可能か?

ここで図4を参照しながら、1日にどれくらいトランス脂肪酸を摂る可能性があるのか見ていきましょう。

 

 

まず朝食です。食パンにマーガリンをたっぷり塗るのが基本という方は、ちょっと考えてください。パン1枚にマーガリンを10g塗った場合、それだけでトランス脂肪酸の量は1.3gになってしまいます。トランス脂肪酸の摂取量を1日2g未満にするには、残り0.7g未満です。食パンにはコーヒーがつきものですが、これに入れるコーヒーフレッシュも、実はトランス脂肪酸を多く含む植物油脂からできています。
さて、お昼ごはんはグラタンを食べます。コンビニやファミレスのグラタンは少しコクが足りないと感じるでしょう。その理由がマーガリンです。洋食屋さんで食べるコクのあるグラタンはバターたっぷりでとてもおいしいですが、ファミレスで食べるグラタンはトランス脂肪酸たっぷりです。付け合わせのサラダにはサラダ油を使ったドレッシングがかかっています。
3時のおやつはクッキーを食べます。サックサクでおいしいなと思ったらパッケージの裏面を見てみましょう。そこにはマーガリン、ショートニングと記載されているでしょう。余談ですが、旅行先で買うおみやげも原材料を確認してみてください。お手ごろな値段のお菓子には、ほぼ100%マーガリン、ショートニングの記載があります。
さて、夕飯はみんなが大好きな唐揚げです。大量の油のカロリーを怖れる前に、サラダ油で揚げる恐ろしさを知りましょう。
サラダ油には元々トランス脂肪酸が含まれていますが、高温で使用するとトランス脂肪酸がさらに増えてしまいます。食後のデザートにアイスクリームを食べます。このアイスクリームにも植物油脂が使われているかもしれません。
これでは、1日でトランス脂肪酸2g未満にはならないですよね。
油というとカロリーしか気にしないという方が多いと思いますが、今回1日の食事を具体的に考えてみて、トランス脂肪酸を含む危険な油が身の回りにあふれていることに気付いていただけたと思います。トランス脂肪酸は細胞膜の構造を不自然にして、血管の柔軟性を損ないます。前回お伝えした通り、動脈硬化を起こした血管は、大腸がん・心疾患・脳血管疾患など様々な病気の元凶となるのです。
まずは、食品パッケージの原材料表示をチェックするクセを付けましょう。マーガリン、ショートニング、植物油脂、それに、マーガリンより油脂含有率が低いファットスプレッドなど、トランス脂肪酸を多く含むものを発見したら、できる限り買わないことです。見分け方の基本はやはり値段です。安い物には安いなりの理由があり、高い物には高いだけの理由があるということです。
次回は、どんな油を摂ったら良いかをお伝えします。(薬剤師 吉野 仁)